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エアラインが直面してきたイベントリスクの歴史【航空局資料から分析】

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新型コロナウイルスの影響、続きますね。特に、航空業界を目指している方々は心が休まる機会が少なくなってきているのではないでしょうか。

それは「分からない」からだと思うんですね。現在と過去が把握出来ないから、現状が分からない、そして不安になる。

今回は、航空業界を取り巻く社会情勢とエアラインが直面してきたイベントリスクから、現状の把握に挑戦してみましょう。流れてくる断片的なニュースだけで、現状を把握するのは難しいですからね。

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航空を取り巻く社会情勢等について

エアラインが過去に直面してきたイベントリスクを学ぶ前に、航空業界を取り巻く状況について理解しましょう。

平成24年と古い資料ですが、航空局が公開する「航空を取り巻く社会情勢等について」は、日本の航空業界の状況を理解するのに参考になります。

資料で取り上げられている事項

  • エアラインの経営状況の推移
  • 国内線イールド(1kmあたり旅客収入)の推移
  • 世界の旅客数の推移
  • 需要予測
  • 世界のエアラインの現状
  • 他の運輸業態との比較

難しい言葉は少なく、グラフを用いて分かりやすくまとまっています。30ページ近くのボリュームがある資料ですが時間をかけて読んで損はしません。

航空業界について知っておくべき事実

それでも時間が無い人のために、資料の中で取り上げられている、インパクトがある知っておくべき事項について箇条書きします。以下は私の感想ではなく事実です。

  • 2025年までの世界航空旅客輸送で最大の伸びはアジア太平洋地域。2005年に比べ約3倍に増加。世界最大の航空市場に成長。
  • 世界のエアラインの営業利益率の全体平均は4.8%であり、他の交通産業と比べて低い。総体的に見て航空業界は利益率の高くない業界(鉄道14.5%、海運6.8%)。
  • 国内航空旅客数は増加傾向にあったが2006年度をピークに2007年度より減少に転じた(国内旅客の7割が羽田利用者)。

華やかなイメージが先行する航空業界ですが、統計データからも確認できる通り、儲からない業界であることは間違いありません(儲けの率が少ないという意味です)。

エアラインが今までに直面してきたイベントリスク

近代社会で人類が直面してきたイベントリスクは多岐に渡ります。キューバ危機(冷戦)、オイルショック、湾岸戦争、イラク戦争、阪神淡路大震災など、数え切れません。

本項では、2000年以降に発生したイベントに絞って取り上げます。

米国同時多発テロ(2001年)

今の高校生位だと知らない方も居るのでしょうか。良く分かりませんが、エアラインのイベントリスクを考えるにあたり真っ先に思い浮かぶイベントです。

これを契機にアメリカを始めとする世界中の国の航空システムの多くのことが変わりました。コクピットドアのセキュリティ強化が最も分かりやすい例ですね。昔は乗客が運行中のコクピットを見せてもらえたというのですから驚きです。

米国同時多発テロが与えた影響|東京海上リスクコンサルティング(株)

発生場所がアメリカだったため、日本の国内旅客には極端に大きな影響を与えていないことが航空局の資料からは確認出来ます。

SARS(2003年)

中国南部の広東省を起源とした重症な非定型性肺炎の世界的規模の集団発生が、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)の呼称で報告され、これが新型のコロナウイルスが原因であることが突き止められた。わが国においては、同年4月に新感染症に、ウイルス が特定された6月に指定感染症に指定され、2003年11月5日より感染症法の改正に伴い、第一類感染症としての報告が義務づけられるようになった。前回の集団発生は2002年11月16日の中国の症例に始まり、台湾の症例を最後に、2003年7月5日にWHOによって終息宣言が出されたが、32の地域と 国にわたり8,000人を超える症例が報告された。

SARS(重症急性呼吸器症候群)とは

SARASの流行は、現在の新型コロナウイルスの流行と類似するイベントとして考えることが出来ると思われますが、航空局の資料を確認すると、SARS発生後の1年間、国内旅客の推移が前年比で90%を下回っている月はありません。

現在の新型コロナウイルスの流行が、エアラインにどれだけ深刻な影響を与えているのかが良く分かります。

リーマンショック(2008年)

このイベントは、流石に知らない人はいないでしょう。一文で表現すると次のような感じです。

低所得者向けの住宅ローンを売りまくり、証券化して更にそれを売りまくり、結果住宅ローンが焦げ付いて、世界有数の投資銀行が破綻、金融危機が起きた。

歴史を学ぶという観点で、非常に興味深い題材ですので、映画・小説・本を通じて学んでいます。マネー・ショートは見やすいです。

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世界を揺るがす金融危機の時でさえ、航空局の資料によると、日本の国内旅客の推移は前年同月比で85%を記録する程度でした。

前年同期比15~20%程度のコロナの状況の凄まじさが伺えます・・・。

東日本大震災(2011年)

良くない記憶を抱えてる方々が多いと存じますので深くは触れません。

東日本大震災の影響による、国内旅客の前年減少比が2000年以降では最大でした。最大で前年同月比75%になる月があったことが確認できます

新型コロナウイルス(2020年)

そして、現在です。連日報道されるニュースで、何となくの数字を見聞きしている人が殆どだと思います。

JAL、4月の国際線利用率14.4% 国内線19.6%

航空局資料が日本の航空業界全体のデータとして扱っていること、JALは自社一社のみのデータを扱っていることから、単純に比較することは困難です。が、国内旅客が前年同月比で約15%というのは、上記で見てきたどのイベントと比較しても桁違いの影響を受けていることが良く分かります

今後の航空業界の考察

以上を踏まえて、私の考察(感想)を以下にまとめます。

過去の類似イベントとしてSARSが挙げられますが、当時はテレワークを容易に導入するためのサービスを始めとするインフラ的な素地が無く、SARS以降も働き方に大きな変化はありませんでした。航空需要も戻りました。今回は「新型コロナウイルスの流行」により、テレワークが(一部?)資本力のある企業にて推進。従来型の働き方を根本的にかつ永続的に変える動きがあります。

結果、エアラインのビジネスクラスの得意客である「仕事」による利用者(資本力のある企業)の永続的な減少の恐れが考えられます。

1981年以降のデータを確認すると、日本のエアラインの収益を支える国内旅客の内、常に半分以上が「仕事」による利用が占めています。エアラインの業態はエコノミーで収支をトントンにし、ビジネスクラスで利益を積むような設計となっている訳です。

航空局の資料でも取り上げられている通り、航空業界はは利益率の高くない業界(業界平均営業利益率4.8%)。

以上のことから、ビジネスクラスの得意客である「仕事」による利用の何%かが永続的に消えてしまった場合、経営への影響は大きいでしょう。「仕事」による利用の〇%が消えたら商品設計を改めざるを得ないみたいな感じで、このあたりは戦略チームの人たちが分析をされてるはずです。

つまり、まとめると。

「仕事」による利用の何%かは永続的に消えてしまうので、現状のままでは利益のでない商品設計になってしまう。エアラインとしての商品設計(運賃を始めとする一切合切)を大幅に変更しなければならない可能性がある。

という感じです。

最後に

個人的には今後の航空業界については、かなり悲観的に考えています。その方が自分の想定よりも良かった時は「ラッキー」で済ませられますからね。

必要以上に悲観的になることは無いのかも知れませんが、事実を受け止めて(知る)、自分で考えて(考察)、行動することが大事だと考えています。

コロナ不況で倒産した世界の航空会社についても、下記のページでまとめています。併せてご覧ください。

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